お見合いに来ないフィアンセ
―駿人side-

 美月ちゃんを家に送り届けて、アパートに帰宅する。
 スマホを見ると、母から10件以上の着信があった。

 弁護士から文書が届いたのだろう。
 怒り狂ってるころだろう。

 くくっと僕は笑うと、スマホを机に置いた。

「ちゃんとわかってるよ、美月ちゃん」と僕は呟いて、口元を緩めた。

 あんだけ他人を心配してくる子は、珍しい。
 疲れないのかな?

 スマホが鳴る。
 僕は液晶を見て、父の名前だったのでスマホを手に取った。

「なに?」
『文書、届いた。いいのか?』

 海外にいる父にも届いたんだ。
 弁護士、仕事早いな。

「いいから、作ったんだよ」
『母さんに反発してとかじゃ……』
「面倒くさっ。そういうの僕が嫌いだって知ってるでしょ。興味ないし。あの子、とっても可愛いんだ。喜怒哀楽が激しくて、見てて飽きない」
『昔からお前の『好き』の基準がいまいちよくわからないが……。お前が納得してるならいい』
「問題はいつもあの人だけでしょ」
『ああ……まあ、そうだな』

 あはは、と父が豪快に笑った。
 なんであの人が好きなのか。
 僕こそ、父さんの『好き』基準がわからない。

「質問。どうして山村さんとの見合いをセッティングしたの?」
『パーティで見かけて面白い子だな、って』
「悪いけど、父さんが今までセッティングした見合いって、全部、あの人がぶち壊してるから。僕、見合いの話、何も聞いてない」
『え? じゃあ……なんで』
「たまたま。美月ちゃんが和服で大学の正門にいたから。話を聞いたら、僕にお見合いをすっぽかされたって怒ってた」

 僕はスマホを耳にあてたまま、ベッドに腰をおとした。
 脳内では、初めて会った時の美月ちゃんの顔を思い出す。

『おこ……。それで付き合うことに』
「すっぽかしたから付き合うわけじゃないよ。怒ってた姿が可愛いって思ったから。あんなに感情をぶちまけられたら気持ちいいだろうなあって思って」
『やっぱりお前の『好き』基準がわらない』
「それはお互い様。ま、そういうことだから。よろしく」
『ああ、わかった』

 父さんとの電話を切ると、そのままスマホの電源を落とした。

 どうせ母からしか連絡は来ないだろうし。
 面倒くさい。

―駿人side-おわり
 
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