お見合いに来ないフィアンセ
 週明けの月曜。
 教室に到着し、自分の机に鞄を置くと、「はあ」と自然と大きなため息をついていた。

「どうだった? 週末のお見合い」と親友の菜々緒が満面の笑みで私の前の席に座ってくる。
「どうもこうもないよ」と力なく私は答えると、またため息がこぼれた。

「やっぱ3回目もダメだったかあ」
 菜々緒が遠い目になる。

「いや、その逆だから」
「え? ダメじゃなかったの? じゃあなに、そのため息は」
「付き合うことになったんだけど……なんか違う」
「じゃあ、お見合いにきたんだ! 小山内さん」
「来なかったよ」
「はあ?」

 菜々緒の顔が歪む。
 何を言ってるのかさっぱりわからない、といわんばかりの表情だ。

 私だって理解がともなっているわけじゃない。
 結婚を前提に付き合うことになったっぽい……というふんわりした感覚しかないのだ。

「見合いに来なかったから、怒りに任せて歩いてたらばったり会ってさ。むかついたから、キレたの。そしたらすごい謝ってきて……翌日には弁護士を交えて、交際契約書?てきなものを作ってきた」
「はい?」
「……でしょう! そういう反応になるよねえ。よくわかんないんだよ、だから」

「ちょっと待って。交際契約書ってなによ」
「小山内さんと私が付き合いますから~みたいなかんじ。よくわかんない。ほとんど小山内さんと弁護士さんで話してて、小山内さんが両親に渡しておいてくれって」
「金持ちって……なんかすごいのね」
「だよねえ~」

 世界が違うんだろうなあ。
 付き合うってだけでも、書類が必要なんだあ。

 私は鞄を床に置くと、机に頬杖をついた。
 今日は、やる気でないわあ。

 いつも勉強する気ないけど。
 いつも以上に、やる気でないなあ。

「おはー。ってなに、このジメジメした空気。さては、美月の見合いが破断か?」
「最低、いまその話ダメだから」

 教室に入ってまっすぐに机に近づいてきた今野 翔が明るい声で話けて、菜々緒に睨まれた。

「え? まじで? まじなの?」
 翔が私の隣の席にすわると、身を乗り出してきた。

「そういう問題じゃない」
「は? 意味わかんねえってば」

「私も、意味わかんないわあ」と私は大きい独り言を零すと、机にひれ伏した。


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