お見合いに来ないフィアンセ
 一か月前、この人とお見合いができるなんて、と父親に感謝して大喜びした。

 一回目のお見合いで、2時間ほどホテルのロビーで待ち呆け。

 彼は来なかった。理由は、突然の予定で行けなかったとか。

 父親同士のやり取りだったから詳しくは知らない。でも次は必ず、というから2回目をセッティング。

 2回目も彼は来なかった。

 大きな大会とダブルブッキングだったとか。

 それがこの記事だ。

 そして今日。3回目のやり直しお見合い。予想通り、彼は来なかった。

 新聞の記事を折りたたんで、巾着に入れると、どんっと背中を押された。

「うわっ」という声が出ると同時に巾着が、手からこぼれ落ちる。

 べちゃっと昨晩の雨でできた水たまりに、巾着が入った。

『小山内さんっ。今回の大会結果、おめでとうございます』
『また記録更新ですね!』
『次の目標はなんですか?』
『今日の結果、だれに一番伝えたいですか?』

 一気に正門に人が集まる。

 人の輪からはじき出された私は、顔を持ち上げると、ひときわ目立つ人間と目が合った。

 お互いに目立つ格好だったから、目があったのだとは思う。

 私は大学の正門に立つには不釣り合いの振り袖姿だし、相手は人の輪の中心にいて、長身からまわりより頭一つぶんほど飛び出している。

 目のあった男の顔を見た瞬間、私は「あ」と小さく声を漏らした。

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