お見合いに来ないフィアンセ
「おいしい!」と私が声をあげると、小山内さんがにっこりとほほ笑んだ。
「良かった。美月ちゃんに口に合って」

 出来上がった料理は、プロですか?と言わんばかりだった。
 
 容姿端麗、頭脳明晰。スポーツ万能。
 さらに、料理までも完璧だとは。

 スゴイ人だ。

「小山内さん、完璧すぎる。できないことなんて無いんじゃないですか?」
「あるよ。できないこと」
「頭が良くて、スポーツも出来て、料理も。完璧じゃないですか」
「取り上げられるとこがたまたま得意なところだっただけ。スポーツだってたくさんあるうちの短距離走で記録を残せてる。頭だって、大学の専門分野だから。料理も、美月ちゃんが来たから得意なのを作ったまでだよ。全然、完璧じゃない」

 んー、デキるってだけで完璧な気が……。
 いつも『普通』の私から見れば、すごすぎるけどなあ。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なに?」

「どうして私と付き合おうって決めたんですか? 小山内さんのまわりには魅力的な女性ってたくさんいると思うんです。友人のかたがおっしゃってたように見合いしなくても、小山内さんにどうしても会いたいって打ち上げの席に来る女性ってあとを絶たないと思うんですけど」
「確かにたくさんの女性には会っているとは思うけど。その中で魅力的に感じたのは美月ちゃんしかいなかったよ」
「はい?」

 私は耳を疑った。
 私しか?

 いやいやいや、間違ってないか?
 私より魅力的な女性が多いでしょ。

「聞こえなかった? 美月ちゃん以上に魅力的に見える人なんていなかったよ。だから付き合おうって思ったんだよ」
「理解が……できない、かも。だって、小山内さんを取り巻く女性たちは美人揃いですよね? 胸がボーンとか。ウエストがキュッとか。すんごい美人とか」
「全部、見た目だよ、ソレ。誰かが位置づけした美人定義に興味はないよ」

 小山内さんがクスクスと笑う。

「僕は僕が定義した美人さんにしか興味ない」と言って、私の後頭部に手が伸びてきた。
 小山内さんの顔が近づいてくるなあ……って思ったら、唇が重なってた。

 え? ええ?
 今、私、キスしてる!!

 小山内さんと、キスしてるよ。


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