お見合いに来ないフィアンセ
「お……お、お……おいしくいただきました」
 顔がかあっと熱くなりながら、私はぺこりと頭をさげた。

「それ、僕の言葉だから」と小山内さんが声を出して笑う。

「いや、あの……その、まあ、そうなんですけど。あ、いや。そうじゃなくて。お、お料理が美味しくてですね」
 どう反応していいのかわからなくて、私はソワソワしてしまう。

「美月ちゃん、可愛い。すぐにでも全部、食べたくなる」
「え?」
 それは……いわゆるアレですか、ねえ。

 私はきょろきょろと周りを見てから、小山内さんを見た。 
 小山内さんが「食べないよ、すぐには」と耳元で囁いた。

 脳内停止音がどこか遠くで聞こえた気がした。

 あーーーっと、私はどうしたら。
 こういうときはどのように行動するべきなんだろうか。

『ピンポーン』と呼び鈴が鳴った。

 小山内さんの顔が無表情になる。
 ふぅっと息を吐いた小山内さんが、立ち上がると「絞め殺す」とぼやいたのが聞こえた。

 え? いま物騒な言葉が聞こえたような……。

「駿人~。お前のために彼女さんを見に来てやったぞ!」
 異様に明るい声が、小山内さんが明けたドアから聞こえてきた。

 すぐさま、『バン』というドアが閉まる音がした。
 小山内さんが、開けてすぐに閉めたのだ。

「……たく、訪ねてきた人間を前に閉めるヤツがあるかよ!」とドアを開けて、文句を垂れる一人の男性がズカズカと部屋にあがってきた。

 小山内さんの家に上がり慣れているようで、我が家のように入ってきた。

「舘岩どぇす。彼女さんの顔を見に来ました」と舘岩と名乗った男性が、赤ら顔で敬礼した。

「は、はあ」と私は返事をすると、小山内さんに視線を送った。

 小山内さんは玄関で、女性と対峙していた。
 ショートカットで、すらっとした体系のキレイな女性だった。

 小山内さんと同じジャージを着ていて、まっすぐに小山内さんと見つめていた。

 なんか……ありそう。
 と、私の直感が働く。

 私はすぐに視線をそらすと、目の前にいる舘岩さんを見る。

「ってことで、彼女さぁ~ん」と言いながら、舘岩さんが両手を広げて近づいてきた。

「ちょ……え? なに?」
 さっき何か言ってたのかな?
 全然、聞いてなかったんだけど。

 ちょ……これは、抱き着かれるの?
 やめて欲しい。

 こないで!

 私は顔をそらして、身を縮めた。


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