お見合いに来ないフィアンセ
「うお」という声と共に、ガタンという音が響く。

 抱き……つかれてない?

 私はそぉっと瞼を持ち上げると、目の前で舘岩さんの頭が小山内さんの足に踏みつけられていた。

「貴様、絞め殺されたいのか」
 小山内さんの低い声が、舘岩さんに降り注がれる。

「一人だけいい思いしてんの、おかしいだろ!」
「どこが?」と小山内さんがさらに舘岩さんの頭をぐいっと踏みつけた。

 舘岩さんの顔が、絨毯にのめりこむ。

「あの……ちょっと」
 やりすぎなのでは?と声をかけたいが、小山内さんの表情が怖すぎて言葉にならない。

「美月ちゃん、大丈夫?」と小山内さんが優しい声で話しかけてくる。
「私は大丈夫です。でも……この人が」

 踏みつけられて潰されている舘岩さんを私は見やった。

「自業自得。駿人が彼女さんと一緒にいるとわかってて、踏み込んだ舘岩が悪い」
 いつの間にか室内にあがっていた女性が、小山内さんのベッドに座った。

 あ……。あっさりとベッドに。

 胸の奥がツキンと痛む。

「相馬まで、俺の敵なわけ?」
「敵とか。味方とか。今はそういう状況じゃないでしょ。わかっててやった舘岩が全面的に悪い。確かに舘岩が興味をもつのはわかる。あの小山内駿人に恋人ができたのか? それは見たい! どんな女だ。って……。想像していたより、ずいぶんと庶民的な女だったけどね」

 ばっさりという女性だ。
 たしかに事実だけど。

 小山内さんに釣り合うような美人でもなければ、頭がいいわけでもない。
 どこにでもいるような普通の女子高校生だ。

 でも、他人に正直に言葉にされると、それはそれで胸が痛む。

「美月ちゃんは可愛いよ」と小山内さんが、私ににっこりとほほ笑んだ。

が、今の私にはあまり嬉しくない言葉だ。
 素直に喜べない。

 世間からみて、自分のレベルがどれくらいか……なんてわかってる。
 この女性の言うとおりだから。

 私は苦笑すると、下を向いた。


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