お見合いに来ないフィアンセ
「で、どういった用件で来た?」
「恋人を見に……でしょ? 舘岩」と美人さんが答える。

「なら用件は済んだだろ。さっさと帰れ。邪魔」
 小山内さんが、舘岩さんの頭をまたぐっと踏みつける。

「私はここに泊まるわよ。家に帰るの面倒だし。明日、大学に行くのにここからのほうが近いから」
 美人さんが、背伸びをしてそのままベッドに倒れこんだ。

 慣れてる。
 この部屋で過ごすのを、この人は慣れてる。

 私にソレを見せつけたいんだ。
 美人さんのほうが、小山内さんを深く知っているって。
 それなりの間柄だって。

 小山内さんが冷たい視線を女性に送ると、「はあ」と息を吐き出して「勝手にしろ」と呟いた。

「んじゃ、俺は帰る~。美月ちゃん、俺が送っていくよ~」
「酔っぱらいは一人で帰れ」
「ええ? 俺だっていい思いしたい~」
「うせろ」

 小山内さんが舘岩さんを踏みつけるのをやめた。

 机の上に置いてあるキーケースとお財布を手に取ると、私の腕を掴んだ。

「美月ちゃん、送っていくよ」
「あ、はい」

 私は立ち上がと、「あ、ピンクパンツ」と舘岩さんに言われる。
「え!?」と私は声をあげて、スカートのおさえた。

 覗かれた!?

 玄関へと向かう小山内さんが、舘岩さんを睨みながら背中を思い切り強く踏みつけて、乗り越えていった。
「くっ」と舘岩さんが苦しげな声をあげていた。

「舘岩、僕が帰るまでにこの女、シマツしとけよ」
 小山内さんが低い声で言い放つと、靴をはく。

 私も小山内さんのあとを追いかけて、玄関へと向かった。

 パンツ……見られた!
 美人さんには、喧嘩を売られたっぽいし。

 私、どうしたら……。


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