お見合いに来ないフィアンセ
『小山内 駿人』だったからだ。

 待てど暮せど来なかった中華レストランでの一時間が、馬鹿らしくなる。

 適当に歩き、たどり着いたところで、こんなあっさりと彼に会ってしまうなんて。

 私はキッと彼を睨み付けると、水たまりに落ちた巾着をサッと取って歩き始めた。

 最悪で、最低だ。

 今回も、なんだかの大会とかブッキングして見合いを放棄したのだ。

 今度こそ。と期待してホテルのレストランに予約を入れた両親が哀れだ。

 巾着の中から、スマホだけを取り出すと、目についたゴミ箱に巾着を捨てた。

 そりゃそうだ。

 なんだかの大会で、短距離の新記録を打ち出し、マスコミにちやほやされるほうが、つまらない見合いに行くよりよっぽども楽しいに決まっている。

 中小企業のよくわからない社長の娘なんか……どうでもいいはずだ。

「さいあく」と言葉を吐き出すと、私は足を止めて、ブロック塀を軽くたたいた。

 ほんと、最悪。バカみたい。いや、馬鹿だ。

 今回こそ来てくれるかもしれないと、両親と同じように期待していた私が惨めだ。

「あのっ。ちょ……これ……」と背後から声がした。

「は?」と私が振り返ると、白と黒のセンスの良いジャージ姿の小山内 駿人が私が捨てた巾着をもって立っていた。

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