お見合いに来ないフィアンセ
「じゃあ、また今度ね」
　小山内さんが助手席の窓から声をかけてくれると、車が発進した。
私はお辞儀をして、小山内さんの車を見送った。

　小山内さんの車が見えなくなると、「ふぅ」と息を吐いた。

　午前１１時すぎ。
　私は小山内さんに家の近くまで、送ってもらった。小山内さんはこのまま部活にいくと、話してた。

　部活に行ったら、相馬さんと会うのかな。
　胸の奥がツキンと痛んだ。

　ホテルでは何もなかった。
　言葉通り、小山内さんは何もしてこなかった。

　寝るときに手を繋いで、眠った。
　小山内さんの手のぬくもりがあたたかくて、私はすぐに眠ってたみたい。

　気が付いたら、すでに朝になってて、小山内さんはもうジャージ姿で起きてた。
　私が寝ている間に、コンビニにも行っててくれたみたいで、朝食も用意してくれたの。

　優しい人。
　
　天然で、短距離走ばかりやってきた世間知らずなちょっとズレたいい人なんだと思ったけれど。
　全然、違ってた。

　すごくすごく大変な環境で生活していたんだね。
　私、失礼な勘違いしてたんだなあ。

「山村　美月さん」と後ろから声をかけられて、私は振り返った。

「相馬さん」
　え？　なんでここにいるの？
　部活があるんじゃ……。

　二歩、三歩と私に近づいてきて、相馬さんが私を、目を細めて上から舐めるように見てきた。

　私は身を縮めると、下を向いた。

　綺麗で、スタイルのいい相馬さん。
　なぜだろう。
　見ただけで、すごい劣等感を抱かさせられる。

　完璧な見た目。
　完璧な所作。

　すべてが小山内さんと同じで、完璧だ。

「朝帰りしたんだ。しかも部活がある駿人に送ってもらって」
「はい」と私は返事をする。

< 40 / 52 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop