お見合いに来ないフィアンセ
 思わず『すみません』と言いそうになって、言葉をとめた。
 私はこの人にたいして、何も悪いことはしてない……はず。

 謝るのは違う気がした。

「私に用ですか?」
「ええ。勘違いしているようだから、教えてあげようかと思って。駿人、あなたとの見合い、まったく聞かされてなかったのよ」
 え? 知らなかった?
 見合いがあるって、小山内さんは知らなかった。

 だから、初めて会ったとき、詳しく私に聞いてきたの?

「庶民と釣り合うわけない……と気づいてもらうために、お母様がわざわざセッティングしたの。それをどう勘違いしたのか。駿人の学校まで文句言いにきたそうね。それで無理やり、付き合うように迫ったとか。ほんっと、庶民ってゲスよね。やることが汚いの。やんわりとこちらが、住む世界が違うのよ、って教えあげてるのに。気づかないでズカズカと踏み込んでくる。最悪」

 小山内さんは知らなかったのに、謝ってくれた。
 まるで自分の失態であったかのように。
 私だけじゃなくて、私の親にも頭をさげてくれてた。

 私、すっごい失礼なことをしてしまった。
 知らなかった小山内さんに、怒って感情のままに文句ばかり。

 なのに小山内さんは言い訳しないで、「真剣に考えさせてください」って。

 私は口元に手をあてる。
 さあーっと血の気がさがっていくのがわかった。

 もしかして、見合いをすっぽかしてしまったお詫びを込めて、今の関係があるのだろうか?

 ホテルで一晩、小山内さんと一緒に過ごせて、ほっこりなんてしている場合じゃないんじゃあ……。

「やっと気が付いたみたいね」と冷たい視線を相馬さんに送られる。
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