お見合いに来ないフィアンセ
「あ……でも、私。そんな、つもりは」
「言い訳?」

 ダメダメ、ダメ。
 小山内さんはあの時、言い訳してなかった。

 ここで言い訳したら、私、最低な人間になっちゃう。

「どうしよう」と私は唇をかみしめた。
 私、小山内さんに酷いことを……。

「謝らなくちゃ」
 私は鞄の中に入れてあるスマホをとろうとする。

「それだけ?」と不満げに声をあげた相馬さんが、私の手首を強く掴んできた。

「い、たい……んですけど」
 私は痛みで、顔を歪める。

 すごい力。
 骨がギシギシ、いっているような気がしてくる。

「謝ってそれで済むと? 甘いんじゃないの、あなた」
「でも……謝らないと」
「謝るだけ?」
「え?」
「無理やり付き合ってるんだものね。謝るだけか。別れるなんて口が裂けても言えないわね。庶民が玉の輿に乗るチャンス、逃せないかあ」

「玉の輿じゃあ、ありません!」
「庶民なのに?」
「あ……周りからみたらそう見えるかもしれませんけど。玉の輿のだけのために、小山内さんに付き合ってもらってるわけじゃありません」

 好き。小山内さんが、好き。
 走っている姿も、笑っている姿も。
 たまにズレてて、心配になるところも。

 ギリリギリリと、掴まれている手首の骨が悲鳴ウィあげているような痛みが走る。

「いっ……たい。離して」と私は顔を歪めて、手を大きく振る。
「じゃ、別れて」
「別れません」
「じゃあ、無理ね」

 負けたくない。
 絶対に負けたくないよ。

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