お見合いに来ないフィアンセ
―駿人side-
「お肌が艶々で。いい思いをしたようだねえ」と舘岩が声をかけてくる。
「ふざけっ」
 艶々になるようなこと、全然できてない。

 僕の走る姿を思い出しながら話す美月ちゃんの顔を見たら、手を出せなくなった。
 
 どうせ、そんなに僕を想ってないだろうし、と思ってた。僕は見合い相手だ。
 玉の輿という気持ちも多少はあるだろうし。

 大好きとか、愛がちらつくような『好き』という感情は、美月ちゃんには無いと思ってた。

 これから育んでいけばいい、と軽く考えてた。
 だから育むために……。それなりの行為は必要って。

 でも、僕を前から知っていると話す美月ちゃんの輝く瞳を見たら。
 もっと大切にしなくちゃって思った。

 そう思ったら、もう手がだせなくなってた。

 抱きたいけど、抱けないってこういうことを言うのかって。
 身をもって知ったよ。

「あいつ、俺よりも先にアパートを出ていったのに。まだ来てないんだよ」
 舘岩が小声で僕に耳打ちしてきた。

 僕もまわりを見渡して、相馬の姿を探す。
 ひときわ目立つあいつが見当たらい。

 一度、家に帰ったのだろうか?

 見た目命的なところが、あいつにはある。
 身だしなみのために家に帰るということはありそうだ。

「小山内、今夜イケる?」
 チームメイトが、酒を飲むジェスチャーをして問いかけてきた。

 僕は首を振って「いけない」と返事をした。

< 43 / 52 >

この作品をシェア

pagetop