お見合いに来ないフィアンセ
「とりあえす、コンビニに行きながら話さない? 小腹が減ったんだ」
 小山内さんが肩をすくませて、苦笑した。

「はい」と私は返事をして、歩き出した。

 小山内さんがスッと私の腰に手をあててくれた。

「相馬から聞いたんだって?」
「はい。今朝、家の前で会って……」
「それで、遅刻か。納得」
「え?」
「あ、こっちの話。相馬の話は半分合ってるけれど、半分は合ってないよ」

 どういうこと?
 私は小山内さんの顔を見上げた。

「美月ちゃんとの見合いがセッティングされてるのは知らなかった。それも3回目だったなんて、ね。僕は知らなかったとはいえ、2回もすっぽかし、あやうく3回目もそうなりそうだった。あの日、美月ちゃんと出会えてよかったと思ってるよ。母は父が良かれと思ってセッティングするものをことごとく潰していくんだ」
「お母さんが……」
「そ。だからって僕は、責任を感じて美月ちゃんと付き合うことにしたんじゃないよ。美月ちゃんと付き合いたいって思ったから、付き合うって決めたんだ」

 小山内さんが、にこっと優しく微笑んだ。

 責任からじゃなくて、付き合いたいって思ったから。
 私は胸の奥がほっこりとあたたかくなった。

 嬉しい。
 小山内さんがそう思っていてくれて。

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