お見合いに来ないフィアンセ
「僕は好き嫌いが激しい。人と仲良くするのも好きじゃない。だけど、美月ちゃんは違う。そばにいてほしいし、一緒に居たいって思うんだ」
「嬉しいです。私も小山内さんと一緒に居たいです」
「なら、誤解はとれたかな?」
「はい」
「よかった」と小山内さんが私の頭にキスを落とした。

「ん? その手首、どうしたの?」
「え?」と私はスッと手首を隠した。

「ちょっと、見せて」
 隠したのに、小山内さんは私の肘を掴んで手首をまじまじと見つめた。

 小山内さんの目が細くなると、無表情になった。

 怖い……。

「これ、相馬?」
「あ、いえ。その……」
「そう、相馬がやったんだね。痛かったでしょ。手形の痣が残るまでやるなんて、やりすぎだよね」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ。僕はこういうのが一番嫌いなんだ」

「あ、でも。気持ち、わからないでもないですから」
「関係ないよ。やることが卑劣なんだよ。仮病使って遅刻してきた裏ではこんなことをして」

 小山内さんが私の痣になっている手首にキスを落とした。

「ごめん。コンビニに行くの、やめた。大学に戻るよ。美月ちゃん、送れないけれど一人で帰れる?」
「大丈夫です。それより小山内さんのほうが……」
 全然、大丈夫じゃない気がする。

 私に何かできることはないのかな?

 私は背を向けて歩き出そうとしている小山内さんの手をそっと握りしめた。

「あの……私になにか出来ることはありますか?」
「大丈夫。ありがと」

 顔だけ私に向けた小山内さんは、にこっと作り笑顔を向けていた。

 私の手が小山内さんから離れると、スタスタと早いスピードで小山内さんが歩き出した。
 あっという間に背中が小さくなり、大学の門へと吸い込まれていく。

 本当に大丈夫だろうか。
 私は大丈夫なのに。

 手首、掴まれたときは痛かったけれど。
 今はもう、同じところを掴まれなければ痛みはない。

 だから気にしなくていいのに。

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