お見合いに来ないフィアンセ
―駿人side-
 僕は大学の門をくぐると、塀に背中をつけて大きく深呼吸をした。

 ポケットの中にいれてあるスマホを取り出すと、従兄に電話した。

「僕が犯罪者にならないためにはどうすればいい?」
 相手が出るなり、僕は感情を極力抑えて、口を開いた。

『くだらねえ』と聞き慣れた返事が耳に入ってきた。
 安定の返事。その言葉が聞きたくて、電話したようなものだ。

僕は口を緩めると、瞼を閉じた。

 荒ぶった心の波が、徐々に落ち着いてくるのがわかる。

 僕より一足先に社会人になった従兄の小山内 勇人に僕は電話した。
 昔から、イライラして耐えられそうになくなると勇人に電話した。

 漢字は違うものの。僕と同じ名前の従兄。尊敬し、信頼できる男だ。
 いつでも僕の味方でもある。

『見合い相手の女と付き合ってるらしいな。その関係で、母親とひと悶着か?』
「ちがうよ」
『じゃ、自称婚約者の相馬か。恋人に嫌がらせでもされたか』
「手首にね。圧迫痕があった。彼女は否定してたけど、相馬がやったんだ。痣になるまで、強く」
『……たく。変わらねえなあ。お前は大事にしているものに手を出されると、キレ度が半端ないからなあ』

 スマホの向こうから、おかしそうに笑う声が耳に入ってくる。

「勇人に話してだいぶ、落ち着いたよ」
『俺は何もしてないが』
「勇人のくだらねえ、を聞くとホッとするんだよねえ」
『くっだらねえ』
「そう、ソレソレ。心がスッとする」
『俺からしたら、お前の面倒くさいのほうがスッとするけどな』

「お互い様だね」と僕はクスクスと笑った。
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