お見合いに来ないフィアンセ
「な、んですか?」

 私は口ごもる。

 まさか巾着をもって立っているなんて思わなかった。

 もっと言えば、追いかけてきているなんて思わなかったから。

 驚いて、言葉を失いそうになった。

「これ、君の……」

「私のですがなにか? 汚れたので捨てたんですけど」

「ブランド物みたいに見えるけれど」

「それがなにか?」

「いや。ただ勿体ないなって。汚れたのは、君のせいじゃないし」

「勿体ない?」

 金持ちのお坊ちゃんらしからぬ発言だ。

 私は体ごと小山内駿人に向けると、ずかずかと近づいていった。

「そうですね。汚れたのは私のせいじゃない。でも汚れたのは事実。好きで買ったブランド物じゃないし」

「好きじゃないのに買ったの?」

 むっとした。

 誰のために買ったと思ったの!?と思わず、怒鳴りたくなる。

 私は汚れた巾着を小山内駿人から奪い返すと、睨み付けた。

 白々しく声をかけてきて。なんのつもりだろうか。
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