お見合いに来ないフィアンセ
ああ、僕は笑えるまでに精神が復活がしたんだ、と認識できる。
 勇人にもう一度、礼を言うと、僕は電話を切った。

 責めるなら、僕にしてもらいたいものだ。
 美月ちゃんは何も関係ないのに。
 僕が彼女と付き合うと決めた。

 美月ちゃんの感情表現がとても素敵だったから。
 素直さに魅力を感じたから。

「あれ? 駿人、コンビニは? まだなら一緒に行こうよ。私も飲み物が終わっちゃって」
 タイミングよくと言えばいいのか、相馬がニコニコした笑顔で近づいてきた。

 僕の中から感情が一瞬にして消え失せる。

 ああ、僕は本当に相馬が嫌いなんだ。

 相馬が僕の腕に絡みつこうとするのを、腕を掴んで阻止した。
 手首を掴んで、ぎゅうっと強く圧迫し始める。

「駿人? ちょ、ちょ……痛い! 痛いってば」

 どれくらいの強さで、美月ちゃんを掴んだの?
 どれくらいの時間、美月ちゃんに痛みを与えたの?

 僕はそれ以上の痛みを相馬に与えたい。

「駿人ってば」と相馬が腕を大きく上下に振った。

「僕はこういうのが大嫌いなんだ。影でこそこそと、相手に嫌がらせする奴が。あんたも俺の母親と同じだ」
「駿人、何……言ってるのか……」
「『わからない』って? 美月ちゃんの手首、見たよ」
「何言って……」
「さっき、見合いのことで謝りにきたんだ。あんたから事実を聞いたって。知らなかったのは事実だけど、責任をとってるわけじゃない。そう僕は説明したよ。責任ってなに? 僕は美月ちゃんと一緒に居たいから、付き合ってるんだ。あんたとは、一秒たりとも一緒に居たくない」

 僕は相馬の手首を離すと、コートに向かって歩き出した。

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