お見合いに来ないフィアンセ
ー美月sideー

「え? 美月ちゃん?」
 本日、二度目の小山内さんの驚きの声。

 私は立ち上がると、スカートの裾を整えてから、お辞儀をした。

「ごめんなさい。お疲れのところ。押しかけてしまって」と私は、小山内さんの家のドアの前で口を開いた。

 気になってしまって。
 
 小山内さんの大学で別れたときの姿が、忘れられなくて、ここで待ってた。
 私が来たからって、何がどう変わるわけじゃないのはわかっているけれど。
 気がソワソワして、落ち着けなくて。

 相馬さんとどうなったのか。どんな話をしたのか知りたかった。

「部屋に入ってて良かったんだよ?」
 小山内さんがにっこりと笑って、私を見てくれる。

「そんな恐れ多い……」と私はふるふると首を振った。

 小山内さんの部屋に勝手に入るなんて、私にはできません。

「部屋の鍵、あげたのに。使ってよ」と言いながら、小山内さんは私に近づいてキスをした。

「ちょ……んっ」
「美月ちゃん、いい人すぎだから」

 小山内さんが離れると、部屋の鍵を開けてくれた。
「どうぞ」と小山内さんが招き入れてくれると、私は「失礼します」と家の中に入った。

「昼間のことが気になってしまって。小山内さん、すごく怖い顔をしてたので」
「ああ、大丈夫だよ」

 小山内さんが、肩にかけているスポーツバックを床に置きながら、くすくすと笑い声をあげる。

「優しいね、美月ちゃん」と小山内さんが、私に笑顔を向けた。

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