お見合いに来ないフィアンセ
「あなたのお母さんがここのブランドのデザインをあなたが気にいっているって言っていたから、ここのブランドで一式そろえたんですけど。髪飾りも、着物も、巾着も、草履もすべて。すっごい高くて大変だった。なのに、当の本人は白黒のジャージなわけ?」

「え?」と小山内駿人が首を傾げた。

 何を言っているのかさっぱりわからないといわんばかり。

「僕の母が?」

「今日の午後2時から、あそこに見えるホテルでお見合いだったの‼ 相手は小山内駿人。今日で三回目のお見合いだった。本人は三回ともドタキャン。一回目は用事が入ったとかで、二回目は大会とダブルブッキング。そして今日、三回目のお見合いのはずだった」

「それで僕の大学に?」

「それはたまたま。頭にきてふらふら歩いてて、疲れて止まったところがあそこだったの。もうホテルに戻ろうとしたところで、貴方を取り巻く記者とぶつかって、巾着を汚した。好きでもない巾着だし、汚れたし。もういらなかったから」

「見合い? 三回目?」

 小山内駿人が、腕を組んで眉間にしわを寄せた。

 目を閉じて十秒ほどしてから、小山内駿人がぱっと目を開けた。

「あそこのホテル? まだご両親いる?」

「いるんじゃない? 1回目も2回目も2時間以上待ってたし」

「ここで待ってて。いま車を持ってくるから」

「は?」

「ここから歩くのは遠いから。それに草履、痛いんじゃない? 歩き方、少しおかしかったから。5分で車を回してくるね」

 小山内駿人がにこっとわらって、大学のほうに走って行った。

 3回も見合いをすっぽかしておいて、私が信じて待っていると思うわけ?

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