お見合いに来ないフィアンセ
『ご迷惑おかけしました。山村さんの大切なお時間を無駄にしてしまって、本当に申し訳ありません』

 そういって、小山内駿人が中華レストランの個室で頭をさげた。

 私の父は驚いて立ち上がると、「いやいやいや」と額から汗を噴き出して、小山内駿人の肩に手をおく。

「中小企業に私らに頭をさげるなんて、顔をあげてください。大丈夫です。私たちは平気ですから」

 父親が必死に小山内駿人の頭をあげてもらおうと、言いつくろうが、彼はなかなか頭をあげなかった。

「いえ。本当にすみませんでした」

「いや、本当に平気ですから」

『本当に』が両サイドから何度も飛び交う。

 いつまで謝りあるのだろうか? と眺めていると、小山内駿人がスッと頭をあげた。

「美月さんとのお付き合い、真剣に考えさせてください」

「え?」と小山内駿人の言葉に私の肩がびくっと反応した。

 何を言い出したのか。

 3回ほどのすっぽかしに責任を感じて、付き合うという道を選ぶのだろうか?

 彼が私と付き合って、利点があるとは思えない。

 こちら側としては、利点はありまくりだ。それがわかっていての発言だろうか?

「ちょっと待って。おかしいでしょ、それ」

 思わず私が口にする。

「何が?」と小山内駿人が首を傾げた。

「のんきに『何が?』って返事する場合じゃないと思う。こういう返事ってもっと慎重になるべきじゃないの? 私がいえた義理じゃないのはわかってるけど。こっちは大賛成な発言だよ。でも、そっちにとったら何の利点もない付き合いになるんだよ? マイナスな付き合いになるのに」

「よく……わからないんだけど」

「わからないのは、こっちのほうだってば」

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