ワンルームで御曹司を飼う方法
・プロローグ(充view)・
【プロローグ・充view】
東京丸の内。結城コンツェルンの本社ビル最上階にある会議室は不穏な空気に包まれている。
祖父である総会長の結城円蔵をはじめ、ずらりと揃った取締役員たちの顔。その視線が厳しさを帯びて俺に注がれていた。
「――で?俺に社長を退けって話ですか?」
地上48階。まるで展望台の如くオフィス街を見渡せるパノラマ状の窓。そこから見える薄曇の空を眺めながら、俺は投げやりに役員の爺さんたちに答えた。
「充!お前と云うヤツは……!我々の言ってる事が分からんのか!?」
「お前がそういう態度を取り続けるなら、それも止むを得ないぞ。充」
結城不動産グループの会長を勤める叔父が声を荒げ、結城電鉄社長の親父が俺を厳しく睨む。そんな一層刺々しくなった空気を柔らかく打ち破ったのは総会長の祖父だった。
「まあ待て。事を荒立てるんじゃない。充、ワシはお前を今の地位から外す事など考えていない。ただ今一度、自分のやり方を見直せと言っているだけだ」
「見直す?俺が就任してからわずか2年で業績を倍近く伸ばしたやり方の何を見直せって言うんですか?」
飄々と口にしながら昨年度の決算資料をばら撒くように会議用デスクの上に投げ置いた。その態度に再び叔父が声を荒げようとしたけれど、結城の傘下で1番大きく右肩上がりに伸びているグラフを見てぐっと口を噤む。
他の役員たちも何か言いたそうだけど我慢してるのか呆れているのか、よく分からない表情で口を噤んでる。そうして妙な沈黙が流れたあと口を開いたのは再び祖父だった。
「ああ、本当に充はよくやっている。ワシが見込んだとおりお前は結城でも群を抜いて経営の才覚がある。だがな、充。会社は即刻利益を出せばいいと云うものでもないんだ。ましてやお前の会社は結城の傘下のひとつに過ぎない。自社の利益を追い求めすぎて結城が今まで築き上げてきた信頼を打ち壊しては、コンツェルン全体の未来さえあやうくなる」
要は、爺さん達は俺が自社の取引先を総とっかえした事に腹を立ててるって訳だ。近年まれに見る円安の今。原材料から生産工場まで国内から海外へ移し、おかげで大幅な人件費削減と生産率の向上を図れた。けれど、時代の波を読んだ俺の功績を役員連中は口をそろえて批難している。
長年、結城が独占契約している国内農場や工場を勝手に切った事で、他の事業にまで影響が出てるというのだ。
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