ワンルームで御曹司を飼う方法

「ありがとうございます。結城のバトラーを代表して御礼申し上げます」

 真壁さんはかしこまったお辞儀を私に向かって丁寧にすると、スーツの人が車から持ってきた小さな紙袋をこちらへ差し出した。

「充さまの体質に合わせて調合された咳止めと炎症を抑える抗生物質です。大丈夫、特別強い薬ではありません。市販の薬は副作用などの心配がありますので使用しないで下さい。それと、宗根さまにお任せする姿勢ではありますが、充さまのバイタルに悪化の傾向が見られた場合はその限りではございません。その際は緊急事態とみなしすぐさま充さまを病院へ搬送いたしますが、同意していただけますね」

「わ、分かりました」

 薬の袋を受け取りもう一度しっかり頷くと、真壁さんとスーツの人たちは「よろしくお願い致します」と折り目正しく頭を下げた。


 私は彼らの信頼を背に負いながら、改めて寒風の中を買い物へと駆け出す。

 ――大丈夫。きっと治してあげられる。スポーツドリンクとうどんを買って、そうだ、プリンも買ってあげよう。きっと汗をかいてるから帰ったらパジャマを着替えさせてあげて。……そういえば社長、薬ってちゃんと飲めるかな?オブラートあった方がいいかな?

 何件かのコンビニをまわりながら、沢山の「してあげたい」で胸がいっぱいになる。

 ゆっくり休ませてあげたい。安心させてあげたい。いつも週末しか食べられないプリンを、特別に食べさせてあげたい。

 苦しいのを取り除いてあげたい。元気にしてあげたい。いつもの笑顔を、取り戻してあげたい。


「……待ってて下さいね、社長」

 私は息を切らせながら幾つものコンビニの袋を揺らして、家路までの道を駆けて帰った。
 
 
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