ワンルームで御曹司を飼う方法
「あの……どうして突然うちへ泊まるなんて言い出したんですか?」
とても真っ当でストレートな私の質問に、社長はちょっとだけ渋い表情を浮かべてからこちらへ向きなおし、おどけた苦笑で答えた。
「追い出されちった。ははは、笑えるだろ。自分でも可笑しいと思うけどさ。ちょっと経営の方針で会長と対立しちゃってな。勘当ってやつだよ」
「え、ええ!?」
うわあ胡散臭い。さっきまで社長の身分だけは本物だと思っていたけど、もしかしてこの人やっぱ偽物かもしんない。
そんな私の心中を察したのか、社長は慌てて手を振って説明を付け足した。
「いや、社長ってのは本当だから。解雇はされてないんだ。経営の権利はそのままに、ただ家から追い出されただけっていう」
「でも、だったら尚更なんでうちに泊まるんですか?社長ならホテルでも新しいマンションでもすぐに住めるでしょう」
「それがなあ……どうやら俺、一文無しみたいなんだ」
「は?」
「どこいってもクレカは使えないし、金も下ろせない。顔パスで入れるホテルも全部断られた。……じじい、手回しすぎだっつの」
なんだか。社長の置かれている状況は私が思っていたよりずっと切羽詰っているようで、途端に彼を心配する気持ちが湧いてきてしまった。
「朝10時から夜8時まで、あとは緊急の懸案があったときだけ会社には入れる。シャワーとスーツは社長室に用意されてて、昼食と接待の場合のみ夕食も支給される。んで、あとは自活しろって」
「……ずいぶんと厳しいんですね」
ようやく情けを向けた私に、社長の顔がどこか安堵に綻んだ。
「だろ?昨日はホテルをまわって断られたあげく公園で寝たよ。信じられねえ、完全にホームレスだ」
すごい。ホームレス社長だなんて、新しすぎる。想像を遥かに超えた彼の現状にポカンとしてしまったあと、私はふとある事に気が付いた。