ワンルームで御曹司を飼う方法

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 十二月の週末。ほんのりとした曇り空からは優しい日差しが降り注ぎ、のどかな一日を思わせる天気だった。

「風もないし、良い気候ですねえ。遊園地日和ですよ」

「まあな。俺の普段の行ないがいいからだろうな」

 おそるべき自己中な自信だけど、今日はせっかくの楽しいレジャーなのでツッコミを入れるのも無粋な気がした。

 そんな呑気な会話をしつつ、とても庶民的に徒歩で駅へ向かい電車と云う大衆的な移動方法で遊園地へと向かう。

 今日の社長はカットソーとニットの重ね着にスリムなチノパンを合わせショートダッフルを羽織るという、とてもカジュアルなスタイルだ。

 パッと見、まさか彼が日本トップの大財閥を担う御曹司さまだとは誰も思わないだろう。

 TPOを考えたのかもしれないけど、もしかして私に合わせて普通の格好をしてくれたのかなと少しだけ思ったりもして。

 電車の窓ガラスに並んで映った私たちの姿を見て、あまり違和感が無いっていうか……悪くないかも、なんて勝手に思ったりして、頬が緩んでしまうのを必死で堪えた。


 途中、やや混み出した電車に

「電車の体積に対して人が多すぎんじゃねえの? 俺が電鉄の方も任されたら速攻で改善しよ。全列車を三階建てにでもするか」

などと無謀なんだか頼もしいんだか分からない発言をしていたけれど、日曜の混み具合でそんな事を言っていたら平日の通勤ラッシュではどうなってしまうのだろうか。きっと電車の本数を増やすどころか、増線ぐらいしかねない気がする。

「社長に庶民の生活を体験させると、ビミョーに日本が住みやすくなるような気がしますね」

「ん? どういう意味だ?」

 社長は不思議そうな顔をしていたけれど、私は窓から見える流れる景色を眺めながら、社会なんて案外そうやって出来てるのかもしれないな、なんて感心していた。
 
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