ワンルームで御曹司を飼う方法
「宗根……これは遊園地じゃない。十分の一スケールのサンプル展示場か、もしくはコレクターの私有地だ」
遊園地に到着するなり、社長の第一声がこれである。ある意味期待を裏切らない反応といえよう。
観光施設と言うよりは、きっと古くから地元民に愛されてきたのだろうなあと、なんだか心安らぐようなこぢんまりとした遊園地は休日なのにほどよい空き具合で、のどかなBGMが流れていた。
「これはまたノスタルジックというかなんというか……いいですね、私こういうのんびりした遊園地大好きですよ」
「確かにノスタルジー漂うなあ。昭和の映画でこんなの見たような気がする」
「言っときますけど、私平成生まれですからね。社長と違って昭和とか知りませんよ」
「俺だってギリギリ平成生まれなんですけど。なんかさりげなく人を昭和に追い込もうとしてねえ?」
「あ、チケット売り場あった。乗り物券買わなきゃ」
のどかなのどかな冬の遊園地は、なんだか私と社長をすごく“普通”の男女にしてくれる不思議な空気に包まれてる気がして。
冗談を交し合う会話も、はしゃぎあう笑い声も、いつもよりもっとずっと距離が近く感じられて。
だから。
「フリーパス買ったからには乗り物全制覇しなくちゃいけませんよ!まずはジェットコースターから!」
「お前、はしゃぎすぎだって。こんな小さい遊園地、焦らなくても全制覇出来るから走るなっての」
駆け出そうとした私の手を掴んで止めた社長の手が、そのままずっと解かれずにいたのも、なんだか自然なことのような気がしたから。
私も、滑らかな長い指に自分の指を絡めて歩いたのは、きっと。
みんな、冬の遊園地のせいだと思う。