ワンルームで御曹司を飼う方法
それからもゴーカートに乗ったり、コーヒーカップに乗ったり。いちいちカルチャーショックを受ける社長を楽しみながら幾つかの乗り物に乗って、園内のドリンクショップで少し休憩をとることにした。
これまたノスタルジックなストライプの紙コップに入ったオレンジジュースとコーラ。それにチープ感漂うポテトとアメリカンドッグも一緒に購入する。
冬の風に吹きっさらしのテーブル席。何もかもが社長には初めてで、衝撃を受けている。けれど。
「……なんかこのポテトすげー旨い気がする。どう考えても旨い要素がないのに」
今日の社長は何をしてもとても楽しそうで。こんなチープ極まりない安いポテトにまで感動していて。
「いっぱい遊んで仲良しの人と食べるものは特別に美味しいんですよ」
きっと誰しもが知っているそんなたわいない事が彼には初めてなんだと思うと、私は嬉しさと切なさが混じった少しだけ複雑な気分になった。
社長は「ふーん」とだけ返事を返すと、持っていたポテトを口に放り込んでから顔を逸らし遠目に園内を眺めていた。
少しだけ沈黙が流れた後、社長は遠くを眺めたまま私を呼び掛ける。
「宗根」
「はい」
「次はあれ乗ろうぜ」
彼の指差す方向には、冬の柔らかな日差しの空に映える観覧車。まるで時が狂ってしまったかのように、ゆっくりとゆっくりと動いている。
「いいですよ、乗りましょう」
私が答えると社長はこちらに向き直り、「強風であっけなく落ちそうな観覧車とか、他にはそうそうないスリルだよな」などと飄々と失礼な事を言って笑っていた。