ワンルームで御曹司を飼う方法
なかなか年季の入った観覧車に社長はおっかなびっくり乗り込むと座席に腰掛けて「ジェットコースターよりスリルあるな」と引きつった笑顔を向けた。
いくら古びた観覧車とは言えそんな簡単に落ちるわけないのにと思ったけれど、風が吹くたびギシギシと不穏な音をたてながら揺れる車内に、私も微かに顔を引きつらせる。
「なんだ? 宗根ビビッてんのか」
「ビビッてません。社長こそさっきから顔色が悪いですよ。まさか本気で恐がってるんですか?結城の御曹司ともあろうお方が」
「ほー、宗根ちゃん言うようになったね~。まあ、万が一落ちたとしても俺はSP達が身体張って助けてくれっからな。宗根はまあ、頑張って池のほうに落ちるといいよ」
「そ、それが女の子に向かって言うことですか!?」
私がムキになって言い返すと、社長は可笑しそうに口をあけてケラケラと笑った。
そして、頬を膨らませている私のことなど気にもせず、社長は窓の外を眩しそうに眺めると
「お、あれ。さっきのドリンクショップじゃん。けっこう遠くまで見えるなー」
などと、楽しげに言った。
なんだかんだ、チープな遊園地を社長は子供みたいに楽しんでいる。
最初はカルチャーショックを受ける彼の姿が面白かったけど、口ではなんだかんだ言いながらもわりと純粋に楽しんでいる姿を見ているうちに、私は心の奥があったかくなっていくような気がした。
――来て良かったな。兵藤さんに改めてお礼言わなくちゃ。
そんな風に和んだ気持ちになっていると。
「宗根、ちょっと来てみ。ほらあれ、変な建物がある」
社長は窓の外に何かを見つけたようで、風景に視線を釘付けにしたまま私に向かって手招きをした。