ワンルームで御曹司を飼う方法
「え?なんですか?」
呼ばれるがままに自分の席を立ち、社長の隣にある窓から外を眺めた。
「ほら、あれ。人が集まってる」
促された視線の先には少し変わった形の建物と広い駐車スペース、そこにテントが出て人が集まっていた。
「なんだ、道の駅じゃないですか」
「道の駅?ああ、地域振興のなんたらってやつか。へー初めて見た」
今までそういったものには関心がない生活だったのか、社長は実にものめずらしげに眺めている。
「新鮮なお野菜とか地域特産のお菓子とか売ってるんですよ。帰りに寄ってみましょうか」
たわいもなくそんな言葉を返しながらふと横を見て、私は意外に彼との距離が近かったことに気が付き密かにドキリとしてしまった。
ふたりで同じ側の座席に座り、触れ合わないギリギリの近さで身体を重ねるように窓の外を眺めている。
ましてや、私の方が窓に近いので、社長は後ろからこちらの肩口越しに外を眺めている状態だ。
……別に、今までだってこれぐらい近付いたことは何度だってあったし、それどころか抱きしめられながら眠ったことだってあるのに。
なのになんでこんなにドキドキしてしまうんだろう。
今まで社長のことを男性として特別に意識したことなんかないのに。……変。今日の私は変だ。
距離が近いことを意識してしまったら、心臓はどうしようもなく早鐘を打ち出して、なんだか頬まで熱くなってきてしまって。
私は何も言葉を発せなくなってしまったまま、じっと固まったように外を眺め続けていた。