ワンルームで御曹司を飼う方法
静かな静かな観覧車の中に、沈黙が落ちる。
静か過ぎて、近過ぎて、なんだかお互いの鼓動や息遣いまで聞こえてきそうな空間。
私はすぐ側の社長の気配を感じながら、キュッと唇を噛みしめた。
……なんで社長なにも喋らないんだろう。さっきまであんなにはしゃいでたのに。
それに、いつまでもこっちの窓ばっかり見てないで、少し離れてくれればいいのに。
社長が今どんな表情をしているのか、私の位置からでは振り向かなくては見えなくて。
彼が今なにを考えてどんな顔をしているのかを考えると、私の胸はさらに加速を始めた。
まるでふたりとも動けなくなってしまったみたいで、私たちは触れそうで触れ合わない距離をじっと保ち続ける。
時が止まってしまったようなふたりを乗せた観覧車は、ゆっくり、ゆっくりと空を昇っていった。
いつしか近すぎる距離は、私の中に『このまま彼に触れてみたい』という願望を芽生えさせた。
ほんの少し身体を傾ければ、私は社長の懐に抱きすくめられる形になる。
なんでだろう、自分でもどうしてそんなことを考えてるのか分からなくて。けれど、それをしてはいけないと、心のどこかで分かっている自分もいて。
――あ……、胸が痛い……。
とても久しぶりに感じた、ぎゅうっと胸が締め付けられるような痛さには覚えがあった。
――これって、『切ない』って、感情だ。
観覧車の窓から見上げ続ける冬の空が、すぐ側の触れてはいけないぬくもりが、なんだかとても愛しくて切ないと気付いて。
私は自分の中にいつの間にか息衝いていた感情が何かを……知った。