ワンルームで御曹司を飼う方法
「じゃあ、もしかして晩ご飯食べてないんですか?」
私の尋ねた質問に、社長はポンと手を叩いてから実に嬉しそうに「それな!」と言った。まるで『いいとこに気が付いた』と言わんばかりに。
「気が利くねー宗根くん。いやー優しい優しい。なんなら俺の秘書に抜擢してあげよっか?」
食事はまだか聞いただけで、私まだご馳走するとも何とも言ってないのに。この他人を余裕で巻き込むマイペース社長にちょっとでも同情した私が馬鹿だった。
けど今さら作らないなんて反抗したところで、何のかんの言い負かされてしまう事は予測できたので、私は潔くあきらめると社長の前から立ち上がり
「晩ご飯食べたらスマホ返してくださいね」
それだけ言い残してキッチンへ向かった。
今夜の献立はキノコの炊き込みご飯。2合炊いて、残ったのはおにぎりにして冷凍しておけば来週のお弁当に持っていける。なんて、私の完璧な予定は虚しくも崩れ去った。
「なかなか美味いね」
やっぱり上から目線で私の作ったご飯を評しながら、結城社長は3杯目のおかわりをした。炊飯器の中は綺麗さっぱりスッカラカンだ。よっぽどお腹が空いてたのかな。
こんな庶民的なご飯が社長の口に合うのかと心配もしたけど、米農家をしている実家から送られてきた自慢のお米と旬のキノコは御曹司さまのお口にも合ったようでホッとする。ただし。
「これはイマイチ」
ひと様にご馳走するには品数が足りないかなと思い、急遽付け足した一品。チルドパックの茶碗蒸しを結城社長はお気に召さなかった。やっぱり舌が肥えてるんだな、なんて感心もしたけれど、それ以前にひとにご馳走してもらった物を残すなんてどうなの、と若干ムッとする。
ワガママで強引でマイペース。こんな人がよく社長なんてやっていけるなあと思ったけれど、これだけ我が強いから大勢の人を引っ張っていけるのだとも気が付いた。人の顔色を伺ってばかりいる私にはとても無理。
キノコご飯を3杯と秋野菜をたっぷり入れたお味噌汁を2杯おかわりして平らげてから、結城社長は満足そうに
「あー、やっと腹が膨れた。どーも、ご馳走様でした」
と、私に向かってヒラヒラと手を振った。
私も食べ終わった器に向かって「ご馳走様でした」と手を合わせてから、改めて結城社長に向き合う。
「社長、約束ですよ。スマホ返してください」
ご飯だって食べさせてあげたんだ、これぐらい強く出てもいいだろう。自分なりにギュッと目力を籠めて社長を見据えると、彼は「あーはいはい」なんて呑気に言いながらも、脱いだスーツの内ポケットから白いスマートフォンを取り出した。
やっと帰ってきたスマホをさっそくロック解除すれば、ああやっぱり、イサミちゃんからの着信が2件もある。さっき途中で切れてしまったから心配してるんだ。
「ちょっと失礼します」
私はそう言って立ち上がると、イサミちゃんとの通話が結城社長に聞こえないように玄関の外へと出て行った。