ワンルームで御曹司を飼う方法
もう夕方だというのに敷地内はけっこうな人で賑わっていて、活気が溢れていた。国道に面しているのもあってサービスエリア代わりに使われているのかもしれない。
お目当ては野菜だったけど、地元の銘菓やいかにも手作りといったお菓子やお惣菜などが色とりどりに並び、思わず目移りしてしまう。
「わあ、美味しそう。くぬぎのクッキーに栗アイスだって。この辺って果実農業がさかんなんですかね」
魅力的なお菓子を前に目を輝かせている私だったけど、社長はなんだかボンヤリとした様子で周囲を眺めている。
「どうしたんですか?ぼーっとしちゃって」
尋ねると、社長は店内やテントの下で忙しなく働いている人たちを目に映しながら口を開いた。
「いや、なんか……みんな働いてるなーって」
「……?それがどうかしたんですか?」
「なんつーか、うーん」
的を射ない返答に私が小首を傾げると、彼は腕を組んで少し考えてからゆっくりと言葉を吐き出す。
「作物を育てて、何かを作って、それを売って、って。なんか一次産業から三次産業までの全てが凝縮されててさ」
「はあ、」
「それに伴う労働力に直面して、なんか……ああそうだよな、みんな働いてるんだよなって、今さら当たり前のことに気づかされた」
「……?」
やっぱり社長の言うことは私には全然理解が出来ない。
けど、商品の野菜を追加して運んでくる農家の人や、笑顔でお客さんにお惣菜を勧めているおばちゃんを眺めている社長の眼差しは穏やかだけど真剣で。
その横顔に私は、人の上に立つ“経営者”の風格をどこか感じていた。