ワンルームで御曹司を飼う方法
「そこのおねえちゃんたち、美味しいお菓子買って行かない?ほら、試食してごらんよ」
ふいに声を掛けられ振り向くと、お惣菜やお菓子のパックを並べたテントから朗らかそうなおばさんがこちらに手招きをしていた。
社長と一緒に呼ばれるがままにカウンターテーブルの前まで行くと、何か試食の乗ったお皿を差し出された。小さく切られたそれを目にして、思わず私の顔が綻ぶ。
「わあ、胡桃おはぎ!美味しそう」
私の反応に、おばさんは朗らかな顔をますます微笑ませ話し掛けてきた。
「あら。胡桃おはぎ知ってるなんて、おねえちゃん、もしかして長野の子?」
「はい、信濃の出身です。だから子供の頃はよくおばあちゃんと一緒に作ったりしました」
「あらあら~、嬉しいわあ。私も長野なのよお」
同郷のお客さんがよほど嬉しかったのか、もともと人懐っこいひとなのか、おばさんはニコニコしながら私の手をとるとギュウギュウと握ってきた。
けど私もやはり同郷の人と会えるのは嬉しい。勝手な思い込みかもしれないけど長野の人って郷土愛が強い人が多い気がするし。
「この町は胡桃の栽培もさかんだからね。胡桃といったらやっぱりおはぎが一番だと思って、毎日作ってこうして並べてるのよお」
「美味しいですよね、胡桃おはぎ。信州みそと擦った胡桃のたれが最高」
「そうそう!信州みそのたれが大事なのよねえ」
私は後ろでポカンと見ている社長のことも忘れ、おばさんとつい郷土トークで盛り上がってしまった。
よくよく見るとテーブルには長野名物のすんき漬けまであって、さらにテンションが上がってしまう。思わずパックを手にとり、私はそこでようやく社長を振り返った。