ワンルームで御曹司を飼う方法
4・充monologue
【4・充モノローグ】
今年ももうすぐ終わりを迎える12月のある日。
俺は食品グループ代表を務める叔父に向かって頭を下げていた。
「……『ファストフーズキッチン』の原材料を結城農場の生産に戻したいだと?」
「いきなり全部とは言わない、徐々にでいい。頼む」
だだっ広い本社の役員室。年季の入った黒檀のデスクの前で深く頭を下げる俺に向かって、叔父は凄みを含んだ声で叱咤する。
「簡単に言うな。いくらうちの傘下とはいえ一方的に契約を切られた農家が、はいそうですかと迎合すると思うなよ。それに、海外生産に切り替えたお前の経営方針に賛同した株主にどう説明するつもりだ」
「農場にも株主にも、俺が直接謝罪して説明する。簡単にいかないことも分かってる。覚悟の上だ」
下げていた頭を戻し正面をまっすぐに見据えると、叔父はいかつい顔で睨むように尋ねてきた。
「今さらどうしてそこまでする必要がある。粗悪でも安ければ消費者は食いつくと、胸糞悪いデータを証明して見せたのはお前だろう」
……本当に。それが俺の経営の“勘”であり、何ひとつ間違っていなかった筈なのになあ。
自分でもまだ少し残っている躊躇いを、奥歯で噛み潰し苦笑する。
「会社は……利益を上げるだけじゃ駄目なんだって分かった。もっと長い目で見て、携わる人間を大切に育てていかなきゃ駄目なんだ。作る人間も売る人間も、そして消費者も。本当にいいものを知り全体の質を向上させていかないと、この国全体の未来が駄目になる。それを守ることは、あらゆる事業を網羅する日本一のコンツェルンである結城に課せられた使命なんだって、今さら気が付いたんだ。だから俺は……例え農場や株主に土下座をしたって、いいものを作って売っていきたい」
言っていて我ながら嫌になる。ガキの頃からコンツェルンを背負う英才教育を受けてきたくせに、こんな当たり前のことに今ごろ気付いた自分が情けなくって。
けれど叔父は、大きな溜息を吐き出すと実に数年ぶりになる笑顔を俺に向けた。
「今夜は緊急の役員会議を開く。まずは総会長にその覚悟を見てもらうんだな」