ワンルームで御曹司を飼う方法
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『ファストフーズキッチン』の本社ビルに戻ってきた俺は、すっかり馴染んだ社長室の椅子に深く腰掛け、背もたれに身体を預けた。
ひとまず、一番手強いと思っていた叔父を陥落させたことに改めて安堵の息を吐く。とは言っても、こっからが大変なんだけどな。
真壁に温かい紅茶を淹れさせてから、俺は部屋から全ての秘書を追い出した。
静まり返った広い空間にひとりになって、そっと自分の手の平を見やる。
――昨日、掴もうとしてきた宗根の手を振り払った自分の手を。
(……参ったなあ)
口に出して嘆きたかったけれど、些細な言質さえも今の生活を壊す材料になりかねないので、零さずそれを飲み下す。
そして唯一監視の目が届かない心の中だけで、俺はどうしようもなくなった自分の想いに向き合った。
宗根と出会ってから、色々なことを学んだ。
人の情、誰かがそばにいる心地良さ、ささやかな喜び。人が生きて暮らすという根本的なことを、俺は彼女から学んだ気がする。
そして――知ってはいけない気持ちまで。
自覚した時には遅かった。
いっそあの場所から逃げ出せばいいのに、それすらも出来ないほど俺はもう宗根灯里という人間を好きになっていた。
結城の後継者として自由恋愛など出来ない立場と、初めて知る狂おしいぐらい切ない想いが交錯して、何度伸ばしかけた手を気付かれないように引っ込めたか分からない。