ワンルームで御曹司を飼う方法
・さよならがくれたもの(灯里view)
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【さよならがくれたもの・灯里view】
12月も20日を過ぎるといよいよ年末だなあと感じる。
街の何処を歩いてもクリスマスイルミネーションに彩られ、お店に入ればクリスマスと年末年始の商品が混在していてせわしない。
私にとってはそんな時間の流れを感じるしみじとした時季でも、結城財閥の御曹司さまにとってはそうはいかない。国内のみならず海を越えて事業を展開している結城コンツェルンの代表者たちにとっては、この時期はパーティーに次ぐパーティーと連日のパーティー攻めで、しみじみどころか超多忙な時季なのだ。
「ちっとも楽しくねえよ、こんなもん」
今朝も、スーツではなくタキシードに袖を通しながら、社長はいかにも不満そうに呟く。
私みたいな小市民から見たら雲の上のような社交界も、彼からしてみたら仕事の一環であり、財閥の義務でしかないらしい。
「仕事がらみは挨拶ばっかだし、財閥のほうは今どきドレスのねーちゃんとダンスまでやらされんだぜ?いつもの業務の方が100倍マシだよ」
しかも国や宗教によってはパーティーの作法や形式も変わってくるとかで、実に面倒くさいと社長は嘆いていた。
そんな風に毎日のパーティーにうんざりしながら支度をしている彼に向かって、私は何度も言葉をかけようとしては噤むのを繰り返していた。
「……なんだよさっきから口パクパクさせて。鯉みたいだぞ」
こちらの様子に気付いた社長が辛辣なツッコミを入れる。軽く傷ついたけど、気づかれてしまった以上、私はさっきから言うか言うまいか迷っていたことを口にする決心がついた。