ワンルームで御曹司を飼う方法
時計の長針が四分の一周動いた頃、ようやくイサミちゃんは嗚咽交じりの声で少しずつ話をしてくれた。
それは――去年の冬、イサミちゃんが総合職へ移ってからの話だった。
憧れの商社に入り努力を重ねてきたイサミちゃんは会社での評価も高く25歳と云う若さで期待をかけられながら総合職へと移った。
けれど、部下を統率する立場を与えられ異動した神奈川で、イサミちゃんは上に立つことの壁に当たる。
思うように伸びない業績。自分の力だけではどうにもならない。かけられた期待は焦りとなって、ますます彼女を追い詰める。
部下からは信頼を得られず、上司には失望され、イサミちゃんは職場で孤立していった。
そんな時、彼女に手を差し伸べた男性がいた。同じ会社の役員だというその男性は優しく、イサミちゃんの唯一の心の拠り所になる。
けれどその男性には……妻子がいた。
元々正義感の強いイサミちゃんは彼との関係に悩んだ。けれど、今は彼を失ったら自分はもう立っていられない。そんな弱さが罪悪感を抱えたまま彼との関係を断ち切れずにいた。
仕事は相変わらず上手くいかない。不倫なんていけないと分かりながら彼との関係が断てない。そんな底なし沼に嵌まっていくような毎日。
そして今日、12月24日の朝。出勤したイサミちゃんの目の前に現れたのは、彼の奥さんだった。
不倫の証拠を突きつけながら激昂した奥さんはイサミちゃんに向かって言った。『この会社にいられなくしてやる』と。
同僚や部下の前で役員との不倫を暴露され、内容証明を突きつけられ、男性とは連絡が取れなくなって――イサミちゃんは逃げてきた。今まで努力してきたものから背を向けて。
クリスマスの夜に、私の元へと。