ワンルームで御曹司を飼う方法
「もう……全部終わりだよ。何もかも全部……」
イサミちゃんは泣いても泣いても止まらない涙を零し続ける。あの、気丈だった彼女がこんなにボロボロになっている姿に、私は彼女がどれだけつらい日々を送ってきたかと思うと苦しくてたまらなかった。
「イサミちゃん……ごめんね、私なんにも知らなくて……今まで力になってあげられずにごめんね……」
そんな事しか紡げない自分を情けなく歯がゆく思っていると、イサミちゃんは私の両手をぎゅっと握って涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。そして、泣き顔のまま口もとだけをゆるゆると微笑ませる。
「灯里……ねえ、お願いがあるの……」
「お願い?」
「うん……聞いてくれる?」
今はイサミちゃんの力になれれば何でもいいと思い、躊躇なく頷く。すると。
「いっしょに……帰ろう? 長野に。私、仕事辞めるから……一緒に長野に帰って、またふたりで仲良く過ごそう?」
呆けたような泣き笑いを浮かべながら、彼女はそう言った。
「…………イサミちゃん……」
「ね? 帰ろうよ。きっと灯里のお父さんもお母さんも喜ぶよ。あっちには友達だっていっぱいいるし、それに蓮だって。ね、ふたりで一緒に帰って……幸せに暮らそう」
虚ろな瞳で饒舌に懇願するイサミちゃんに、私は返事が返せない。
「ね、いいよね? もう東京も神奈川もこりごりだから。長野に帰ってやり直そう」
「…………イサミちゃ……」
「ね、灯里。私、帰りたい」
「…………」
泣き濡れた瞳にまっすぐ見つめられ、私は唇を噛みしめる。
――イサミちゃんが困ってる。人生で初めて、私を頼ってる。それほどまでにイサミちゃんは追い詰められてるんだ。
私は今まで何百回、何千回、イサミちゃんに助けてもらってきただろう。今度は私が助ける番だ。彼女が望むなら、一緒に田舎に帰って平穏に暮らしたっていい。
家族や蓮や友達のいる田舎に帰って、きっと東京にいるより平和で穏やかな毎日になる。それは私にとっても悪い話じゃないはず。何より、頼れるイサミちゃんと一緒にいられるのだから――……
「だ……駄目だよ、イサミちゃん! そんなの……逃げちゃ駄目だよ!」
気がつくと私は、イサミちゃんの手を固く握り返して叫んでいた。涙に濡れた瞳に私を映すイサミちゃんを真っ直ぐに見据えて。