ワンルームで御曹司を飼う方法
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「……灯里の言う通りだね。長野に帰ったって昔に戻れるわけじゃない。いつか逃げ出したことを、私必ず後悔する」
泣いて泣いて、声が枯れるほど泣いてから、イサミちゃんはそう言ってようやく顔を上げた。
その瞳はもう虚ろではなく、元気とは言い難いけれどしっかりと前を向くイサミちゃんの瞳だった。
そして彼女は私の渡したお水を一杯飲むと息を吐き出してから僅かに微笑み、
「ゴメンね。せっかくのクリスマスに駆け込んで泣いたりして」
と、恥ずかしそうに眉尻を下げる。
「全然。私はイサミちゃんが来てくれるならいつでも大歓迎なの知ってるでしょ。それに……イサミちゃんが困ってるのになにも知らないなんて、私、悲しいよ。頼りないのは分かってるけど、それでも私、少しでもイサミちゃんの力になりたい」
そう答えながらも、自分が大きな力になれないことが歯がゆい。イサミちゃんにもっと元気になって欲しい、何か出来ることはないかなと焦りながらクッションから立ち上がる。
「とりあえずイサミちゃん、ご飯食べていきなよ。ほら、今日はケーキもあるから」
けれどイサミちゃんは静かに口もとに弧を描くとゆるく首を横に振って立ち上がった。
「大丈夫だよ、ありがとう灯里。もう充分元気もらった。それに」
そこまで言ってから、彼女はベッドに座ってこちらを眺めていた社長に目を向ける。
「ごめんなさい、クリスマスパーティーの途中で突然お邪魔して。このお詫びは、後日改めて」
イサミちゃんが彼に向かってペコリと頭を下げると、社長は1度大きく息を吐き出してからこちらへやって来た。そして、ハンガーに掛けてあるスーツから名刺を取り出し、そこに何かをサラサラと書き込むとイサミちゃんに向かって差し出した。