ワンルームで御曹司を飼う方法
「この番号に電話しな。結城グループの弁護士事務所だ。一般人の依頼は受け付けてないんだけど、俺の紹介なら話が通る。宗根の友達ってことでサービス価格にもしといてやるから。そこに任せとけば少なくとも会社を解雇される事態にはならねえよ」
そう言って渡された名刺を受け取りながら、イサミちゃんは驚きに目を瞠る。そんな彼女を見てもう1度大きく息を吐き出してから社長は言った。
「……あんたのしたことは社会的に見ればやっぱ悪いよ。どんなにつらい事情があったって、その男の家族には関係ねえ。あんたは無関係の人間のものを奪って傷つけた罪人だ」
社長の厳しい叱咤に、イサミちゃんは唇をキュッと噛みしめた。彼女のそんな表情を見て、私はどうしていいか分からずオロオロと戸惑ってしまう。けれど。
「けど、今回だけは宗根に免じて力を貸してやる。イサミは宗根の憧れだ。二十年も誰かに憧れ続けられるのが、どれだけ大変で凄いかは分かるよ。ずっと背筋を伸ばし続けてなきゃいけないんだからな。だから今回だけは助けてやる。その代わりイサミはまた胸を張れ。宗根に見せられる堂々とした背中に戻るって約束しろ」
そう厳しく紡ぐ横顔は、凛々しくて気高ささえ感じる“上に立つ者”の顔だった。
会ったばかりの人に咎立てと放免が自然と出来る彼は、やはり生まれつき人の上に立つずば抜けた才覚があるのだろう。
その証拠に、社長の言葉を受けたイサミちゃんの瞳が涙に濡れながらもみるみる生気を取り戻していく。
「……ありがとうございます。必ず……必ずまた、灯里に憧れてもらえるような幼馴染になるって、約束します」
拳でぎゅっと涙を拭ってから力強く答えたイサミちゃんを見て、社長は少しだけ目元を緩めると再びベッドへと戻っていった。
そしてイサミちゃんは今度こそしっかりと笑顔になってから、私と社長にもう1度頭を下げた。