ワンルームで御曹司を飼う方法
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帰ると言うイサミちゃんを駅まで送ると、彼女は別れ際に私の頬を両手で包んで言った。
「強くなったね、灯里。驚いたよ。きっと、あの社長のおかげだね」
――強くなった――。それは他の誰に言われるよりも、イサミちゃんが言ったからこそ深く深く私の心に響く。
ずっと頼って頼られてきた私たち。もしかしたら今、私たちは何かを卒業したのかもしれない。
「……そうかも。社長にさんざん振り回されたから、嫌でも鍛えられたかも」
そんな風におどけて言えば、イサミちゃんはクスクスと顔を綻ばせて笑ってくれた。
「いい出会いがあって良かったね、灯里。安心したよ。これからは私も灯里に負けないくらい成長しなくっちゃ」
「うん、頑張って、私はいつだってイサミちゃんを応援してるから。何かあったらいつでも頼って」
「ふふ、灯里に胸を借りる日がくるなんてね。わかった、これからは頼りにさせてもらうから」
最後にイサミちゃんは「じゃあね」と言って、私の頭を優しく撫でてくれてから電車に乗り込んだ。
その仄かなぬくもりは子供の頃お母さんが撫でてくれたぬくもりに似ていて――
冷たい冬の風がそのぬくもりを掻き消すと心の奥から寂しさが湧き上がったけれど、街を彩る聖夜の煌めきが、家で待っててくれている大切な存在が、それを癒してくれた。
「さ、私も帰ろ。はやく戻んなくっちゃケーキのチョコの家、社長に食べられちゃう」
私は小さく笑ってマフラーに顔をうずめると、ジングルベルの流れる街を駆け足で家路へ向かった。