ワンルームで御曹司を飼う方法
「ああー!信じられない!!」
部屋に帰りついた私は、ただいまを言う間もなく絶叫をあげてしまう。なぜって。
「ケチなこと言うなって。お前の大事なイサミを助けてやったんだぞ? チョコや苺ぐらい安いもんだろ」
テーブルに残されている私の分のケーキからは、見事にチョコも苺もいなくなっていたのだから。
コートを脱ぐことも忘れて愕然としたままテーブルのケーキに近寄って行ってしまうと、生クリームしか乗っていないまっさらな白が目に染みた。
「ひ、ひどーい!せっかくのクリスマスケーキなのに、彩りも何もないじゃないですか!」
「ホワイトクリスマスバージョンだよ。雪に埋もれた銀世界と思えばロマンチックじゃん」
「もう~!社長はお正月の数の子と伊達巻は抜きです!大晦日も社長のお蕎麦には海老天付けてあげない!」
「はあぁ!?おま、それとこれとは関係ないだろ!?」
膨れっ面でホワイトクリスマスケーキを食べる私の元に、社長がジタバタと焦った様子でやって来る。
「あー分かった、俺が悪かった。今からパリのショコラティエ呼んでチョコの家作らせるから、な。なんだったらこのアパートよりでかいチョコの家作らせるぞ?」
「嫌です。クリスマスケーキのチョコの家は一年に一回しか食べられない特別なものなんですから」
必死に取り繕おうとしてくる社長からプイッと顔を背けて言うと。
「お前なあ。たかがチョコでいじけるなよ、子供っぽいぞ」
なんとまあ、自分の行為を棚に上げ呆れた溜息を吐かれてしまった。
「こ、子供っぽいって!人のチョコと苺を盗み食いした人に言われたくありません!」
ムキになって怒って見せると、社長はブフッと吹き出して可笑しそうに笑い出した。
「あははは、宗根の怒りんぼ」
彼の笑顔があまりにも楽しそうだったから、怒っていたはずの私もつられて笑ってしまう。
ツリーやリースを飾った小さな部屋にはしばらくふたりの笑い声がいっぱいで、私は今ここにはきっとサンタクロースがいるのかもしれないと思った。
25歳のクリスマス。私が1番欲しいと願ったものが、こうして手に入ったのだから。
『最初で最後の、社長との楽しいクリスマスの思い出をください』って。
――いつか彼がいなくなった日に、今日の思い出がきっと寂しい心を温めてくれるから。