ワンルームで御曹司を飼う方法


「ほんっと年末年始なんていらん仕事が増えるだけだよなあ。うちのジジイなんて親族・役員集めて毎年でっかい書初めなんかするんだぜ。結城の今年の抱負っつって、一ヶ月前から準備して張り切ってんの。付き合わされる方はたまったもんじゃないぜ」

 今日も今日とて朝食をペロリと平らげながら、社長は年末年始の忙しさを嘆く。

 けどそれも、そろそろ終わりだろう。年が明けて一週間を迎え、街並みはずいぶんといつもの様子に戻りつつあった。クリスマスに忘年会に新年会と、コンツェルンや財閥の挨拶やパーティーに連日追われていた社長には、お疲れ様と労いたい。

「けどまあ、毎年恒例とはいえジジイの元気な書初め姿見ると安心するよ。老いるどころか、ますますパワフルに漲ってたからな。まだまだトップの座は揺るぎなさそうだよ」

 社長は食後の紅茶を飲みつつ、そんな憎まれ口を叩きながら嬉しそうに笑う。

 なんとなく最近分かってきたことだけど、彼は総会長であるお爺さんのことがとても好きらしい。結城の跡取りとして生まれた彼に、お爺さんは手塩にかけてたくさんのことを教え学ばせたみたいだ。

 今回の勘当も総会長の決定だと聞いた。そう考えると、社長と私が出会ったのもお爺さんのおかげなので、私もこっそりと感謝せずにはいられない。

「さすが社長のお爺さん。お元気なのは何よりですね」

 私も温かい紅茶を飲みながら応えれば、社長は嬉しそうに目を細めて頷いた。

 きっと厳しい後継者教育の中にあっても、社長はお爺さんの愛情をどこか感じながら育ってきたんだろう。そう思うと、なんだか私も嬉しくて胸が温かくなった。

「さーて、ぼちぼち行くかな。今日は『ファストキッチン』の業務だけだ、国内だけだしそんなに遅くなんねえよ。晩飯よろしくな」

「はいはい。あったかいもの作って待ってます」

 そして私は、立ち上がってスーツの上着に袖を通した背中を見送る。これから途方もない責任を背負い人を統率していく勇ましい背中を。


「いってらっしゃい。頑張って下さいね」

「おう、いってきます」


 いつものように軽く片手を上げて出ていく背中が、今日も無事に帰ってきますようにと祈りながら。
 
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