ワンルームで御曹司を飼う方法
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会社に出勤すると、社内インフォメーションボードに『派遣の方は事務室に来て下さい』との連絡が追加されていた。
私はロッカーに荷物とコートを置くと、それに従って事務室へと向かう。こちらに気付いた総務の人が手招きをしたので行ってみると、書類と封筒を渡された。
「ええと、宗根さんの派遣契約って今度の三月いっぱいで満期よね。もし継続してもらえるなら、二月末までにこれ記入して提出してもらえる?」
ああそうか、もうそんな時期かと、手渡された書類を眺めながらしみじみと思ってしまった。一礼して事務所を出て、ロッカーに書類をしまいに行く通路で考えてしまう。
来年度もここで働こうか、それとも違う仕事先をさがそうかなあ、と。
今までの私だったら慎ましくも安定したこの生活を自ら変えようなんて思わなかっただろう。けど、最近少し思う。ちょとだけ……もうちょっとだけ、色々なことがしてみたいと。
それが具体的になんなのかは分からないけれど、社長といっしょに暮らしている影響だろうか。自分は人生経験が乏しすぎるかもと考えるようになってきた。
社長ほど世界中を飛び回って様々な経験をするのは到底無理だけど……でも、変わり映えのしなかった日常を積極的に変えてみたいとも思った。臆病だった25年間を取り返すつもりで。
自分でも驚くけれど、最近の私はそんなことを考えるようになってきていた。
「でも新しい仕事っていったってなぁ……私、なんの取り柄も無いし」
何か資格でも取ってみようか、などとあれこれ考えていると、
「おはよう、宗根さん」
と、後ろから声をかけられた。振り向けばそこにはまだ私服姿の兵藤さんが立っている。
「おはよう、兵藤さん。今来たところ? 珍しいね、いつも早く来るのに」
「うん、寒くって布団から出るのやだなーって思ってたら二度寝しちゃって。あやうく遅刻するところだった」
「あはは、兵藤さんでもそんな事あるんだ」
「私、寒いのが1番苦手なんだよねー」