ワンルームで御曹司を飼う方法

 そんな話題を弾ませながら、いっしょにロッカールームまでの廊下を歩いた。

 兵藤さんともずいぶんと仲良くなって、毎日こんな会話を交わしたり、時には休日に電話で長話することだってある。

 ……本当に、毎日仕事以外はほとんど人と話さないで終わっていた数ヶ月前とは大違いだと、しみじみと思った。

 人と深く関わることがなんだか怖くて、いつも一歩が踏み出せずにいたあの頃。

 もし……もしも社長と出会わなかったら、きっと私はあの頃のままだった。

 社長が強引に振り回してくれたから、私は一歩が踏み出せて。そして、どんどん歩き出すことが出来たんだ。


「……ねえ、兵藤さん」

「ん?」

「私って……前と変わったかな?」

 自分の感じていることを確かめたくて、ふいにそんな質問を投げ掛ければ、兵藤さんは少し目を丸くしたあとニッコリと口角を上げて微笑み「うん」と頷いてくれた。

「宗根さん明るくなったかな。ここに来た頃より毎日元気になった気がする」

 兵藤さんのくれた答えに嬉しくなって顔を綻ばせれば、彼女はそんな私を見てさらに付け足した。

「それに最近宗根さん綺麗になったよ。なんだか可愛くなった」

「えっ」

 その答えにはさすがに驚いてしまう。全然自覚がなかったことを褒められてしまい、私は頬を熱くさせて首を横に振ってしまった。

「そ、そんなことないよ!だって別に何もしてないし、お化粧だって髪型だってなにも変えてないし……」

「もっと変わったことがあるんじゃない?」

 ちょっとだけ含み笑いをしながら楽しそうにこちらを見やる兵藤さんの瞳は、なんだか私の心を見抜いているみたいだ。


「別に……変わったことなんて……」

 赤くなった顔を俯かせて小声で呟けば、兵藤さんはロッカールームのドアを開けながら、

「うふふ、私は応援するよ。宗根さんのこと」

 と、優しい顔で笑ってくれた。
 
 
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