ワンルームで御曹司を飼う方法
それに、私が動き出すきっかけをくれたのは間違いなく社長だ。
彼がここに住み着くときに言った『宗根の気弱な性格を治す』って約束……まさにそれが果たされた結果かもしれない。
だから私は、誰よりも社長に背中を押される事が、もっと大きな勇気に繋がっていく。
「そうですね。うん、そうしよう。案ずるより産むが易しって言うし」
しっかりと頷いた私を見て社長は嬉しそうに笑顔を浮かべると、「よし、頑張れ」と言って手を伸ばし軽く私の頭を撫でた。
その上から目線の激励が私は嬉しくて――ほんの一瞬だけど撫でてくれた手が愛しくて。
「……へへ、頑張ります」
きっと頬が赤くなってしまってるだろう顔を、照れ笑いに綻ばせた。
少しだけ沈黙が流れたけれど、それは気まずいものや緊張したものではなく、笑みを交し合った温かいもので。
それから社長は表情をちょっとだけ変えると、
「実は俺もな、新しい事業参入を考えてるところなんだよ」
と、ベッドにもたれ掛かるように座り直した。
「新しい事業?結城コンツェルンのですか?」
「まだそれは分かんねえ。コンツェルンとしての利益が望めない場合は独立事業として起ち上げてもいいと俺は思ってるんだけど、役員のオッサンどもがうるさくてな。まあ、総会長だけは面白がって賛成してくれてるから、なんとかなるんじゃねえかな」
詳しい事は私には分からないけれど、途方もなく大きい計画なのだろうという事だけは伝わった。そしてきっと、それは単なる事業計画ではなく社長にとって“やりたいこと”なんだろうという事も。まっすぐ前を向く静かで強い意思を秘めた眼差しから、伝わった気がした。
「上手くいくといいですね、応援してます。それに、お爺さんが味方になってくれるならきっと上手くいきますよ」
私も、彼の背中を少しでも押せたらいいと思う。たとえ非力でも、社長の目指すものを応援してあげたい。
そんな想いと、やっぱり総会長のお爺さんは社長の味方なんだと微笑ましい安心感が相まって思わず笑みを零せば、
「ばーか、上手くいくに決まってんだろ。俺を誰だと思ってるんだよ。それにジジイはなんだかんだ俺に甘いからな。ちょろっと孫らしく甘えてやれば、あのジジイ喜んで俺に出資するぜ」
そんな照れ隠しいっぱいの毒舌を口にしながら、社長は子供みたいに得意げな笑みを満面に浮かべた。
――きっと上手くいく。社長も、私も。きっと、これからもずっと。
社長の笑顔はそんな希望を抱かせる輝きを持っていたから、私は根拠も無いのに安心してしまって。
きっと明るい未来がふたりを待っている。そう信じて希望に満ちた夜は――
――あっけないほど、突然幕が降ろされる。