ワンルームで御曹司を飼う方法
「ガスが消えてるんだからお湯が出なくて当たり前じゃないですか。これをオンにしてからシャワーを使うんです」
私はすっぽんぽんの結城社長から視線を逸らしつつ、心底困り果てて給湯のスイッチを押した。
本当に本当になんて世間知らずなんだろう。信じられない。この人は給湯の仕組みすらいい年して知らないうえ、すっぱだかで外に出てもいいって教育を受けてきたのか。大金持ちの考えることは分かんないな。
「これでまともなシャワーになったのか?」
「社長の言うまともがどんなものなのか分かりませんが、41度のお湯が出る事だけは確かです」
「オッケー。上出来、上出来」
目のやり場に困りながら早口で説明すると、社長はご機嫌そうに浴場へ戻って「おーあったけー」と歓喜の声を上げていた。
その声を聞いてなんだか脱力してしまった私はヘナヘナと床に座り込む。
あ、そう言えばイサミちゃんとの電話また途中で切れちゃった。……いいや、もうラインで大丈夫とだけ送っておこう。
なんだか相談しても埒が明かなくなってきた気がして、疲れきった私はイサミちゃんに三度目の電話を掛ける事をあきらめた。
そして蓮にも、同じようにラインを送っておく。本当は電話して声が聞きたかったけど、通話中にさっきみたいな事が起きたら余計に蓮を心配させちゃうし。
『心配掛けてごめんね。とりあえず今日はもう大丈夫です。詳しいことは明日また連絡するね。いつも心配してくれてありがとう』
そんなメッセージをふたりに送ってから、ふと気付く。
…………結城社長、勝手にシャワー浴びてるけど。あの人、着替え持ってないよね……?
そんな嫌な予感がよぎってしまった、次の瞬間。
「宗根ー、この部屋って男物のパンツある?」
湯気のたちこめる浴場のドアがそんな呼びかけと共に開かれ、私は彼がまっぱだかで出てくる前に財布を持ってコンビニへと駆け出したのだった。