ワンルームで御曹司を飼う方法
「……社長、ごめんなさい。私、我侭ばっかり言って……」
彼のふところに顔をうずめながら言えば、可笑しそうにクスクスと笑う声が頭の上から聞こえた。
「ほんとビックリだよ、宗根っちがこんなに我侭だったとはなー。泣くわ喚くわ、あげくに俺に向かって命令だもんな」
「ご、ごめんなさい……!本当にすみません……」
改めて言われると本当にとんでもないことをしたもんだと顔が熱くなる。自分の行為が恥ずかしくて恐ろしくなり、さらに強く胸板に顔を押し付けた。
「あはは、ウソだよ。むしろちょっと感動したかな。お前、やっぱやれば出来る子なんだなーって安心した。俺の目に狂いはなかったよ、うん」
社長はそう言ってポンポンと私の背中を叩き話し続ける。
「初めて会ったときはお前、本当にオドオドしてたもんなあ。俺なんかが転がり込んできても追い出すことも出来ないでメシまで作ってくれちゃって」
「そ、それは社長が強引過ぎたからじゃないですか。確かに私も気弱だったことは認めますけど……」
拗ねた口調で返せば、社長はまた可笑しそうにクスクスと身体を揺らして笑った。
「お前、変わったよな。会った頃よりずっといい顔してるよ」
どこか懐かしさをこめて言われた台詞は、胸に切なさを込み上げさせる。
だって、“いい顔”にしてくれたのは、全部社長のおかげじゃないですか、って言いたくなる。
友達を作ることさえ躊躇っていた私を強引に人の中に押し込めたり、イサミちゃんがいないと動けないと思い込んでいた私の鎖をあっさり断ち切っちゃったり、ずるくて抜け出せない初恋を卒業させて前を向かせてくれたり。
全部、全部、社長が背中を押してくれたから私はこんなに変われた。
そのひとつひとつの軌跡が、今はなんだかとても懐かしくて愛おしい。
「……へへ、そうですか?」
私はまた泣きたくなる気持ちを必死に抑えながら、はにかんだ笑いを彼に向ける。
そんな私に社長は目を細めて見やると、「うん」とだけ言って子供を褒めるみたいに頭を撫でてくれた。