ワンルームで御曹司を飼う方法


 ――そんなこんなで、気が付くとあっという間に三年の月日が経っていた。

 世界中を旅するたび、充の軌跡をひとつ見つけるたび、私はどんどん成長していく。

 彼が幼少の頃に住んでいた国、ホームステイしていた街、乗馬を学んだ牧場、ダンスの授業が嫌いで逃げ出した寄宿舎、子供の頃好きだったチョコレートケーキを売ってるパティスリー、バイオリンのコンクールで優勝したコンサートホール、一目惚れして買ってしまったという古城、初めて事業に着手した会社のビルディング、コレクションのクラシックカーが展示されている博物館。

 巡った場所にはどれも確かに充の存在を感じられた。ここで暮らし生きて過ごした時間があの人を作ったのだと思うと、どこも愛おしくて同じ場所に立つだけで胸が温かくなる。

 豊かな経験と出会いがあの人を育てたというのなら、それを辿っている私も少しは強くなれただろうか。

 そんな思いで旅を続けているある日。

オーストラリアのノーザンテリトリーに到着した私は、日本にいるイサミちゃんから電話を受けた。


『灯里、元気にしてる? 元気ならいいけど、たまには顔も見せてよ。蓮も結婚式の前に一度灯里の顔が見たいって言ってたよ』

「あはは、ごめんね。今度日本に帰ったら必ず連絡するから。そうしたら三人で会おうよ」

 イサミちゃんは変わらず神奈川の会社で仕事を頑張っている。つらいことに見舞われた時期もあったけれど、しっかり立ち直り今では少しずつ業績も伸び始めているとか。

 やっぱり彼女は私を一番心配してくれる存在で、時々こうして連絡をくれては安否を気にしてくれている。『灯里がすっかり頼もしくなったのはいいけど、頼もしすぎて逆に心配』なんて笑いながら。

 イサミちゃんからの連絡によると、蓮は高校生の時から付き合ってる彼女ともうすぐ結婚するそうだ。さすがに結婚式までには私も帰国しなければと思っている。

 大切な幼なじみの結婚を祝福できることが、私は今から楽しみでならない。そう素直に思えるようになったのは、傷を癒し成長させてくれたペットセラピーの夜があったからだと振り返って思う。だから尚更、私は蓮の結婚が嬉しいし、そう思える自分が好きだ。

 私たち幼なじみ三人は共に寄り添い合って育ち、かけがえのない絆を繋いだまま今はそれぞれの道を歩んでいる。

 イサミちゃんも蓮も、きっと一生変わらない最高の友達だと思う。
 
< 164 / 188 >

この作品をシェア

pagetop