ワンルームで御曹司を飼う方法
「えっ! え、えええ!?」
信じられない再会に、ものすごく軽い挨拶を交わされ、私は混乱してしまう。
これは白昼夢だろうか。だってこんなところに充がいる訳がない。彼は日本で結城電鉄と金融の会長を勤めてるはずだし、それに体調不良だっていうし、そもそも私がここにいるなんて知らないはずだし……。
「まーた鳩が豆鉄砲食らったような顔して。相変わらず不測の事態に弱いな、灯里は。まだまだ修行が足りないぞ」
コーヒーを飲みながら飄々とそんなことを言って、充は可笑しそうにケラケラと笑う。
とりあえずとても元気そうな事には安心したけれど、こんな再会をして驚くなと言う方が無理だ。唖然としたまま立ち尽くしていると、私のようすがおかしいことに気付いたソフィーがやって来て声をかけた。
「どうしたのアカリ? このお客さんに何かされた?」
心配したソフィーが私の腕を掴み充を怪訝そうな顔で見やる。すると彼は席から立ち上がり、懐から出した名刺をさわやかな笑顔で私たちに差し出した。
「お仕事中にお伺いして申し訳ありません。私、結城コンツェルン関連団体『一般社団法人Y‐Connect』の代表理事・結城充と申します。本日はこちらの宗根灯里さんを我が社のアドバイザーとしてスカウトに来ました」
「え?」
悠々とビジネストークを話し出す充の姿を、私もソフィーも目を真ん丸くして見つめた。そして何よりも、その内容に驚かされる。ソフィーにも分かるように英語で話されたのだけど、彼は今、私をスカウトに来たと言っただろうか?
ソフィーは受け取った名刺をマジマジと見やるととつぜん思い出したように「ああ!」と叫び出した。
「結城コンツェルンって、あの日本企業の!? まあ驚いた! アカリ、あなたあんなすごい所からヘッドハンティングされるなんて、有能な人間だったのね?」
「ゆ、有能? 私が?」
驚きと理解出来ないことの連続で、頭がクラクラしてくる。私は旅をしているバックパッカーで、ここの食堂にお世話になってるだけの人間で。なのにどうしてこんな所で充と再会できたあげく、スカウトまでされているんだろうか。