ワンルームで御曹司を飼う方法
「で、アカリはどんな才能を買われたの? 世界に名を轟かせる一大コンツェルンからのスカウトだもの、きっと驚くような才能の持ち主なのね」
興味深々で尋ねるソフィーに、充は爽やかなビジネススマイルのまま答える。
「言ったでしょう?『この店で一番上手くパンケーキを焼ける子を』って。彼女は私の専属パンケーキ焼きになってもらうんですよ」
「まあ!」
どう考えてもジョークの彼の言葉に、ソフィーは丸い目をさらに丸く剥いて驚く。それを見て思わず「くくく」と悪戯いっぱいの笑い声を零した充は、こちらに向き直って私の肩を抱いた。
「もちろん、それだけじゃありませんが。彼女は私と我が社に必要な能力を沢山持っています。なので、オーナーさんには悪いのですが灯里は早速連れて行きますね」
「え!今からですか!?」
とつぜん何処かに連れて行かれる宣言までされてしまい、私は焦って充と店内をキョロキョロと見回してしまった。
けれど、そんな私の焦りを見越したかのように、店内に数名のスーツの男性とひとりのエプロンを着けた女性が入ってくる。
「灯里の代わりの人材はこちらで用意させて頂きました。すみませんが急いでるので、私の部下が彼女の荷物を取りに二階へ上がらせてもらいますね」
呆気にとられているソフィー始め店中の視線を集めながら、私をさらっていく準備は着々と進められる。そして、こちらの都合などお構いナシで人を巻き込んでいくこの強引さに、私は胸の奥からワクワクするような懐かしい昂ぶりを感じた。
あっという間に準備を終えると充はソフィーの手を取り握手をして「お騒がせして失礼致しました。それでは、ごきげんよう」と真面目なんだかおどけているんだか分からない挨拶を残した。
「さ、いくぞ灯里」
そして私の肩を抱いたまま歩き出し、ポカンとしている店中の注目を浴びながら悠々と外へと出る。
「あ、相変わらずやることがメチャクチャですよ!ていうか、どうしてここに居るんですか?それに私をスカウトって……」
こちらの抗議と質問を充は楽しそうに聞き流しながら、店の前に停めていたリムジンへと乗り込んだ。もちろん私も強引に車内に押し込まれる。
以前と同じで、車とは思えない豪奢な内装に感心しているうちにリムジンは走り出し、私たちを何処かへ運んで行った。